後継者問題と北朝鮮の政治文化・・・3代目金正哲バッジ登場?

 拉致問題も核問題も六か国協議も、ほとんど進展を見せないまま、北朝鮮問題は相変わらずの堂々巡り。解決の糸口どころか、落としどころも見えない。将来の展望や計画がない以上、打開策があるわけがないのだ。あるのはただ、先の見えない時間稼ぎと本質の伴わない小手先の改良だけ・・・。

 そもそも北朝鮮自体が、一体どこへ向かおうとしているのかさっぱりだ。「国体の護持」が至上命題だというのは理解できるが、国体それ自体の実態がわからない。何のために、何を、どう守ろうというのか。
 「革命」も「社会主義」も、もはや遠い過去のこととなってしまった北朝鮮。もはや国際的革命運動の潮流から取り残されて、見放されてしまっているとしか思えない。周辺国の利害に翻弄されつつ、ただ体制維持のための体制維持に陥っているのか。

 とはいえ、何が起ころうと、あるいは起こるまいと、時が経てば人は老いる。最高指導者も現人神も神の代理人も。
 笑い話にあるように、「統計学上、人間の死亡率は100%とされている」・・・のである。
 では、金正日の権力を継ぐのは誰かというと、どうやら巷説によると次男の金正哲が最有力なのだそうだ。今年、25歳になるという青年である。

 なんだか話がでかくなってしまったが、先日気になるニュースをネットで見た。
 元ネタは、朝鮮日報系列の『週刊朝鮮』(電子版2006年3月4日付け)。
 「金正日総書記の二男である金正哲の肖像画を描いたバッジが金総書記の生誕64周年に当たる今年(=2006年)2月26日から、労働党中央委員会副部長以上、内閣副相(次官)以上、それに準じる人民軍と国家機関幹部に配布された」。

 これまで北朝鮮のバッジ類に関心を寄せてきた当サイトとしては無視できないネタである。
 本当だろうか? 信憑性は高いと評価するムキもあるようだが。


金正哲バッジ(党旗型)の予想図。正哲氏は公表されている写真が少なくて苦労する。


 金日成も金正日も、肖像画やバッジになるのは、まだ若いときのものばかりだった。しかし、金正哲はそれらと比べものにならない若さだ。
 なんだかイメージがわかないので、金正日バッジの画像を元に、戯れに金正哲バッジの予想図を作ってみた(右画像)。
 これまでの経過からして、まず登場する可能性が高いのが党旗型バッジではないかと思われる。
 公表されている彼の写真は少ないので、その写真に大幅に手を加えて作ったが、こんな雰囲気になるだろうか。・・・バッジの実物を見てみたら、まったく違ったりして(笑)。
 しかし、画像を作っていて感じたことだが、一般的には若者の肖像というのは、いまいちバッジとしてはサマにならないものだなあと感じた。
 なんというか、若さというのは、ありがたみが薄いというか、政治的な偶像としてはプラスにならないもののようである。

 しかし、ちょっと待てよ。・・・と、私は思う。
 ついこの前、金正日バッジ製作中止のニュースは何だったのか?(「金正日肖像画の撤去について・・・どうなる肖像バッジ?」を参照
 金正日バッジはやめると言っておきながら、3代目バッジの製作を始めたのだろうか。でも、そのようなことがあり得るだろうか? それとも先のニュースが誤報だったのか。歯がゆいことだが、今の段階ではなんともいえない。
 普通なら、公の席で後継者氏名を正式に行ってから、その後でバッジなりの製作普及を行うのが本当の順番だろう。
 どうも、金日成からの権力委譲に関してもそうだが、金正日は権力世襲については、慎重すぎるくらい慎重に振る舞っている。一説には、世襲批判を避けるためともされている。
 父親が死んだ後も、実質的には父親から受け継いだ最高権力者でありながら、長い間それをアピールしようとは決してしなかった。そのための絶好の機会は何度もあったにもかかわらず、である。国際社会はその度肩すかしを食らわせられ続けた。

 息子への権力委譲も、これまでと同様、少なくとも当分の間は、大っぴらに行うことはおそらくないと私は思う。
 北朝鮮の動向を注視する国際社会は、これからも長い間、権力委譲の不明瞭さにヤキモキさせられ続けるだろう。もし明確な形で権力委譲が公表されるとしたら、それは国際社会よりも「お家騒動」の決着として行われると思われる。つまり、国内の深刻な動揺を抑えるために、有無を言わせないアピールを行う必要に迫られた場合だ。だが、その可能性は低いだろう。

 もし、正哲バッジの登場が本当だとすると、もちろんそれを決定する人間は、金正日以外にはいない。後継指名と同じことだからである。
 歴史を振り返れば興味深いことである。
 金正日は、かつて父・金日成バッジの大衆的普及を行い、朝鮮戦争後の国家体制の盤石化を図った。金日成亡き後は、自身のバッジや、日成・正日親子のバッジを作製して、親から子への権力委譲をアピールした。
 そして、自身から息子への権力委譲をスムーズにするため、今度は息子のバッジの普及も手がけることになる。
 バッジの普及を通じて支配体制を確立していった金正日にとって、これはすっかり手慣れた政治的手段となった感がある。彼によって定着した北朝鮮の政治的文化というべきか。

 今年で25歳というからずいぶん若いが、金正日が健在のうちにデビューを果たす必要がある。
 だが、内患外憂がこれほど深刻化した北朝鮮を、この若者が立て直せるとは、当然ながら全く信じられない。沈みかけた船からネズミが逃げ出すというたとえどおり、彼を支える体制自体も急速に悪化するだろう。
 国家を支える根拠となるはずの社会主義イデオロギーを、北朝鮮は自らの手で歪め破壊してきたからである。
 
 かといって、3代目への権力委譲がすぐにでも失敗し北朝鮮が崩壊するかというと、その点にも疑問がある。なにしろ、金体制が崩壊しても、受け皿となる権力基盤がない。
 韓国はもちろん、中国やロシア、日本にも即座に対応することは不可能だし、メリットもない。イラクやイランと違って、石油利権がないからである。
 国際社会が北朝鮮崩壊の事態にどう対応するかというと、果てのない延命治療をほどこしつつ、自分たちが損をしないためにどう立ち回るかに腐心し続けるのだろう。そして、本質的な問題解決は、常に先延ばしにされ続けるのだ。

 ああ、そうか。なんのことはない。
 要するに、今と同じということである。


(2006年5月5日)