騙されまくり、週刊新潮(6月17日号)「北朝鮮からザックザク」お宝情報

 早いもので、拉致被害者家族帰国からはやひと月半が経とうとしている。前回、掲載してからも追加情報はないものかとあちこちさがしたが、些細なネタは見つかるものの、これぞという情報にはついに行き当たらなかったのはつくづく残念である。あとはジェンキンズ氏(曽我氏の夫)問題絡みが残るだけか・・・。

 そんななか、電車の車内広告が目をひいた。「北朝鮮からザックザクお宝」の文字。週刊新潮の広告だ。おもしろそうなので、降車駅のKIOSKで即購入し、開いてみると・・・なんだこりゃ?
 あまりにもツッコミどころが満載なので、ここに紹介する価値は充分にあろう。


  
グラビア扉写真 左写真のアップ。見える限り、ホンモノはなさそうである。よく見ると、ニセモノの特徴である気泡まで見て取れる。丸型のバッヂでは、肖像の髪型が、妙に頭頂部のあたりが平らだが、これもよくある「ニセモノの特徴である。

 上の写真を見てほしい。これがそのグラビアページの扉写真。
 説明には「金日成、金正日両氏を描いたバッジがビニール袋いっぱいに。コレ、捨てるモノなんかではもちろんない。北朝鮮のさまざまな層の市民からワケあってもたらされた、貴重きわまりない”お宝”なのである」。
 「さまざまな層の市民からワケあってもたらされた」というが、どういうワケでこんなにたくさん彼らがニセモノを持っていたのか知りたいものだ(笑)。
 写真を拡大してよく見ると、ニセモノの特徴である気泡や、おかしな肖像まで見て取れるモノが含まれている。要するに、「脱北者から買った」「北朝鮮の軍人が売りに来る」などといううそっぱちなセールストークを真に受けて、中国製のニセモノを売りつけられただけの話。
 しかし、今どきこんなニセモノに騙される人がまだいようとは、驚きと言うほかない


  
状態極悪!汚すぎて、ただでも欲しくない勲章の数々 変なコスプレ人民軍兵士。
左側のひと、せめて靴紐くらい結んでほしい

 次は、「軍人たちの落とし物」と題したミリタリーグッズを見てみよう。
 これを買った日本人によると、「第1級国旗勲章は北朝鮮の元軍人が持ち込んできた」のだそうで、「なんでも勲章をもらった亡父の墓を掘り起こし、金欲しさに持ってきたのだとか。親の墓を暴くなど、儒教社会ならずとも言語道断のはずだが本人は気に病む風もない」。
 そしてなんと「とりあえずレアな一品として4万円の高値で買い取る」・・・というから驚きだ。どうやら初期ネジ式のタイプと見られるが、それにしても状態悪すぎ!七宝はほとんど剥落し、全体に傷だらけ。その下の自由独立勲章も同様。世の中には気前のいい人がいるもので、驚くばかりだ。
北朝鮮の勲章は貴金属の含有率が高いため、換金を目論む不埒な軍人は少なくないと伝えられていたがまさかこれほどまでとは」・・・などと驚いてみせるが、恐らくライターの妄想に過ぎないだろう。初期の北朝鮮勲章はそもそもソ連製なので、その辺に出回っているソ連勲章と材質が変わるはずがない。第一級国旗勲章は金色をしているが、これは銀にメッキしたもの。純金製ならいざ知らず、銀にメッキでは素材価値としてはさほど高かろうはずはない。

 その右の写真もすごい。
「・・・2人の男性が身にまとっているのは、正真正銘の軍の制服だ。ちなみに右は中佐、左は統一戦士(二等兵)のもの。試着した2人の感想は、ごわごわして着心地は最悪。生地も安っぽくて無闇に動くと破れそうと手厳しい」。
 まあなんにせよ、なんなのだこの敬礼は?人民軍って、いつからこんな変な、「手の平を向けた敬礼」するようになったのか。どうもその辺に無知な人らしいということがわかる(英軍のイメージと混同?)。二等兵が、こんな将校用略帽(両脇に赤いパイピング付き)をかぶるのもそもそも変だ。
 さて、実は、このミリタリーグッズについては、後日談がある。このサイトにも協力してもらっている佐藤同志からの指摘で判明したのだが、この勲章と軍服写真、実はずっと昔他誌に掲載されたのとまったく同じものなのだ。勲章の傷も、軍服のレイアウトも(二等兵の間違った帽子すらも!)。
 それは、「PXマガジン」(ワールドフォトプレス発行)というミリタリー雑誌で、その初号、平成12年1月5日発行に掲載されアイテムと、まったく同じなのである。もうまる4年も前の情報をそのままなんの進歩もなく掲載させるとは・・・。なお、この「PXマガジン」、北朝鮮特集にひかれて書店で立ち読みしたところ、内容のしょぼさに買うのをやめたことをハッキリ覚えている。
 週刊新潮の記事では「最新北朝鮮情報を紹介」みたいなノリで書かれているが、事実は使い古されたネタの焼き直しに過ぎないことに注意したい。4年前の間違いまで当時のまま、というのはある意味感動的だ。それ以来、全然情報が更新されてないのだなー。
 それと、まあこれは蛇足だが、「亡父の父から勲章を掘り出して売った」という内容ですが、私はまったく信じない。真相は、外国人に高く売りつけるため、悲劇的な作り話を演出しただけじゃないか。実際は、どこの誰とも知れない墓から盗掘したってとこかもしれない。
 まあホントのとこは本人しかわからないけど、こういう話されても全然疑わない人の神経はどうなっているのか。コレクターならば、売り手が商品の価値を高めるためにどんな作り話でもこしらえることは、身をもって知ってるはずで、そういう経験を一切経ていない(または全然気がつかないバカか)レベルの低さがうかがえて、しらけるばっかりである。

 さて、これで最後としよう。「一般市民や学生が残していったバッジ」。当サイトでは真贋の見分け方も掲載しているが、大体見当がつくだろうか。
 まず、パッと見ただけでも、「父子章」と「党旗章」と「人民服章」はニセモノだとわかる。理由を列記する。
・「父子章」:肖像のプレートと、台の周辺にズレ・隙間が見て取れる(その下の社会主義青年同盟章は、ピッタリとはまり、隙間などは見えない。ホンモノの証拠である)。肖像自体の印刷もよくない。
・「党旗章」:肖像がやや不鮮明で、決定的なのが、右下の方に見える気泡(並んで見える小さな白い丸)。台のハマリ方もピッタリしていないように見える。
・「人民服章」:まず、服が全体的に黒っぽく襟などが見えない、頭頂部が妙に平らで不自然など、疑う余地のない代表的なニセモノ。当サイトでニセモノとして紹介したバッジと同じタイプである(こちらを参照)。
 だが、もちろん中国製のニセモノの存在など想像もしないライターは次のように書いている。「制服を金に換える衝動から逃れた兵士にも、小遣い稼ぎの術はしっかりとあるらしい。摘発した脱北者から取り上げた市民バッジを売り払いのがその手口。不届きな兵士から手に入れた貴重はバッジの数々を含めて下に並べてみた(上の写真のこと)」。
 申し訳ないが、ここには貴重なバッジなんてひとつもない。多少価値のありそうなのはニセモノだし、ホンモノのほうは大量に出回っているコレクション価値のないものばかり。そもそも「不届きな兵士」の悪行に義憤を覚えるなら、彼らに儲けを与える行為にはなにも感じないのだろうか。まあ、どうせこのライターの妄想だからかまわないけど。

 そして果てしなく妄想を膨らませる。
官憲の手に落ち、不運にも収容所送りとなっているかもしれない北朝鮮市民の、呪いの声が聞こえてくるようだ」という。
 ・・・私の耳には、バカな外国人にニセモノをまんまと売りつけることに成功したヤツの高笑いしか聞こえてこないんですけど。

 とにかく、ツッコミどころの多い記事で堪能させてもらった。事実を見ず、どんなデタラメも疑わず、ひたすらライターが妄想だけを膨らませたこの成果、あっぱれというほかない。
 この記事だけでも、300円払った価値は充分にあったと感謝している。


(2004年7月5日)