夕刊フジに北朝鮮グッズネタ登場!・・・「中国に流出した北朝鮮グッズ」
最近、六カ国協議だの、核開発疑惑だの、脱北者問題だの、拉致被害者家族帰国問題だの、北朝鮮を巡ってマスコミに取り上げられるのはシリアスな政治ネタニュースばかり。もっとマニアなネタはねえかなあ・・・と思っている北朝鮮マニアのみなさま、あけましておめでとうございます。実は、当革命委員会でも、ネタ不足には難儀していたところなのですが、久々に目を引くネタを発見しました。
2004年1月21日の夕刊フジ。見出しは、
『「金正日」が売られてる!北グッズが中国に流出 貧困にあえぐ人民がやむにやまれず手放し…』
おお。思わず身を乗り出すタイトルではないか。
『マッチ箱、トランプ、金正日バッジ、そして名誉の「国旗勲章第1級」までも−。北朝鮮の生活物資が国境の川を越え、中国側へ大量流出している。貧困に耐え切れなくなった人民がやむにやまれず手放した“財産”は、皮肉にもブローカーを介して、日本人マニアや韓国人観光客の「お土産」となっている。中国東北部にある朝鮮族自治州に流れ出す物資の裏側には、どんな背景があるのか。旅行者たちの話をもとに、興味深い北の一面をルポ風にまとめた。』
前にも指摘したが、どうも夕刊フジは北朝鮮グッズにマニア的関心を持っている編集者がいるらしい。これまでもたびたび金日成バッジなどを取り上げてきた実績がある。
なお、記事にはグッズの写真も掲載されている。
取材者は、北朝鮮国境に接する街、中国の図們で、ある店を訪れる。
『店内に入ると早速、男性店主が「金日成バッジと金正日バッジ、1個10元(約130円)でどうだ」−。「付けなければ不敬罪になる」(北朝鮮専門家)というバッジも山盛りに置かれるほどの大量流出。』
2003年12月下旬の取材だそうだが、「1個10元」という価格、「山のように置かれている」状況からして、今中国全土に広まっているニセモノ金(日成、正日)バッジである可能性は極めて高い。たまたま私も2004年1月、中国に行ったとき北京などの古物市場を訪れたのだが、その際、大量にニセモノ金バッジを見かけた。しかも、なぜかどこでも申し合わせたかのように1個10元・・・。
記事は、「大量流出」じゃなくて、「大量生産」とすべきだろう(まあオレも見たワケじゃないから、ニセモノとは断言できないが)。
肝心のバッジの写真がないのが残念である。
さらに、取材者は予期せぬ「すごいモノ」を発見する。
『たどたどしい日本語で「ニホンジン、いっぱい買っていく。これグッド」と店主が奥の棚から取り出したのは「国旗勲章第1級」。
ある北朝鮮グッズ愛好家は「金日成勲章に次ぐ名誉ある勲位。老後の食糧配給が保証される上、罪を犯しても軽減される『特典』もある」と重要性を語る。
80年代に原敕晁(ただあき)さん拉致事件に関与した工作員の辛光洙(シン・グアンス)に授与されたとの情報もあり、最近では在日朝鮮人ボクサーチャンプや一昨年開催されたアリラン祭のプロデューサーに授与されたらしい。』
北朝鮮グッズ愛好家の説明を待つまでもなく、1972年に金日成勲章が制定されるまで、国旗勲章は最高位勲章であり、その後は金日成勲章に次ぐ勲章となっている。なんだか、取材者が国旗勲章を手にして興奮している様子が伝わってくる。
しかし、「ニホンジン、いっぱい買っていく」と言われるニホンジンのひとりに私がいるかと思うと、正直、感慨深い(恥ずかしい)ものがあると告白する。
それにしても、夕刊フジの記事にたまに登場する「北朝鮮グッズ愛好家」ってだれなんだろうなー。(実は知り合いだったらどうしよう・・・)
しかし、最も気になったのはこのあとの部分だ。
『10年以上前からモノで北朝鮮内部を分析している宮塚利雄・山梨学院大教授は「貴重ですね。墓場まで恩恵が受けられる勲章が堂々と売られるようになった。社会的地位のある人も苦しい立場にあることを証明している」と語る。』
宮塚教授といえば、北朝鮮情報通として知られる専門家で、「北朝鮮観光」(1992年、宝島社)にあるように、北朝鮮観光旅行中、ゴミをあさるほど凄まじい好奇心を発揮してあらゆるブツを収集し、それらから北朝鮮の姿を明らかにすることで知られている。北朝鮮問題について、テレビなどでコメントしている姿を見たことのある人も多いだろう。
しかし・・・と私はしばし考え込んだ。その専門家のコメントがこれ?ホントに?
ハッキリ言うが、今どき国旗勲章なんて、たとえ第1級であっても、まったく珍しいモノではない。とにかく、ものすっごく数が多いのだ。インターネットオークションなどを見てもわかるはずである。北朝鮮の勲章は、最高位クラス(金星メダルや金日成勲章など)はともかく、国旗勲章クラス以下の勲章はまさにインフレ状態。このどうしようもない濫発状態を見れば、かつてのような権威や恩恵はなくなっていると考えるのが普通だろう。
したがって、記事にある現状について宮塚教授は「社会的地位のある人も苦しい立場にある」証拠と説明するが、実態はむしろ「勲章の権威や得られる実利が低下した(消失した)」証拠であり、さらに、中朝間の小型物流の活発化がブツの流出を可能にした、私なら考える。当事者にとっては、売って現金に替えてしまうほうが得なのである。何らかの具体的恩恵があるなら、わずかな金で売ることを選択するだろうか。また、北朝鮮では、何度も何度も同じ勲章を授与するので、全部持っていなければいけない必要が薄いという事情も考えられる。
だから、北朝鮮勲章が売られていることが、北朝鮮人民の貧困の証拠となるであろうか。北朝鮮人民が貧困状態にあることは間違いないが、勲章の流出がその根拠と考えることは疑問である。
では、日本ではどうか。金鵄勲章を初め、あらゆる種類の勲章が大量に売られているではないか。なぜか。食うに困ったせいか。単に持っている価値がないからである。授章した本人はともかく、遺族の立場から見れば、持っていてもメリット(権威という心理的優越心、年金などという経済的実利)がない、だから売って金にするのである。
ここで、少し細かい説明を行う必要があるだろう。コレクションとしての国旗勲章について。
国旗勲章は1948年に制定された、北朝鮮でもっとも歴史のある勲章であり、多くのバリエーションが存在する(「国旗勲章のバリエーション」を参照してください)。それによって価値がまったく異なるので、一言で価値を言うのは難しい(もっとも、この記事では、そのような事情を把握している様子はまったくない)。もちろん、ケースや授与書の有無、保存状態なども価値に影響する。
この取材で取材者がどのようなバリエーションの国旗勲章を手にしたかは不明ながら、写真で見る限り、金属色や七宝の色、全体の形からして、「もっとも大量に出回っている安価なタイプ」に間違いない。もし、50年代前半朝鮮戦争時代に発行された銀製ネジ式1級国旗勲章だったら、私でも欲しい(笑)!!
なお、北朝鮮勲章の価値低下という状況は、つい最近始まったことではない。私は、10年近く前から中国の古物市場で北朝鮮勲章が安価に流通している状況を見てきている。繰り返すが、もはや国旗勲章など珍しい物でも、高価な物でもないのである。
宮塚教授は、こういう現場の状況を把握していないのだろうか。「モノで北朝鮮内部を分析する」専門家だと私も思っていただけに、ちょっと拍子抜けである。余談ながら、私は国旗勲章が割と好きで、かつては喜んで買っていた。1級国旗勲章だけでも10個以上転がっていて、要らなくなったので資料として必要な分を除いて、人にあげたり売ったりしてしまったものである。
中国に行って古物市場の様子を見てこい、というつもりはない。ネットオークションをのぞけば、勲章などをはじめ、どれほど北朝鮮グッズが氾濫しているか明らかなはずで、その状況すら把握していないらしい様子が、私には不満である。オレと違ってプロなんだから。
さて、取材者がいくらで実際に購入したかというと、
『ちなみに北朝鮮版“大勲位”のお値段、言い値は約1万6000円だったが交渉の結果、他の勲章(国旗勲章第3級など)3つを加えて1万円ポッキリになった。』
中国で買った場合、あくまでも個人的感触であると断っておくが、最近の安っぽいタイプなら、国旗勲章の価格は、3級で300〜500円、2級で1000〜1200円前後、1級で3500〜5000円くらいってとこか。
まあ1級、3級国旗勲章と労力(労働)勲章?3つで合わせて1万円(約750元)なら、私だったら絶対買わないが、まあぼったくられたというほどではない。初めての購入者にしては、まずまずの価格だと言ってあげていいかも知れない。
・・・とまあ色々書いてきたが、
『「金正日」が売られてる!北グッズが中国に流出 貧困にあえぐ人民がやむにやまれず手放し…』
という見出しについて考えると、
@金正日が売られてる! → 売られてるのは中国製ニセモノ。
A貧困にあえぐ人民がやむにやまれず手放し → 勲章の権威・恩恵が低下している。
というのが実情で、やや羊頭狗肉の感は否めない。
でも、実は、この記事は楽しかった。私にとって新しい情報はほとんどなかったが、北朝鮮のバッヂなどを探して、延吉や図們、丹東の街をさまよったときのことを、ブツを見つけて嬉しかった気分や、刺すような空気の冷たさを、まざまざと思い出した。取材者はブツの鑑定眼についてはまったくのシロートだが、キミ、私もかつてはそうだったのだよ・・・と妙な親心をいだいてしまった。ワケわからん(笑)。
(2004年1月24日)