緊急掲載! 東シナ海不審船(北朝鮮工作船)から発見された金日成バッジについて

 偶然そのニュースに接した私は、思わず身を乗り出した。
 2001年12月22日に東シナ海で発生した不審船事件。沈没した船体を9月に引き上げて捜索したところ、なんと「金日成バッジ」が発見されたと報じられた。10月2日のことである。
 当初から北朝鮮の工作船と目されていたため、金日成バッジが発見されたとしてもさほど驚くには当たらないだろうが、北朝鮮のシンボルともいえる金バッジが船内から発見されたことで、北朝鮮との関連は決定づけられた感があった。また、船内からは多数の北朝鮮製武器、日用品が発見された。
 私が気になったのは、一体発見されたのは、どのようなバッジであるか、ということであった。報道によると、およそ次のようなバッジとのことであった。

「バッジは縦横2センチ弱で、赤い地に故金日成主席の肖像画がかかれている。工作船の前部機関室で見つかった黒い小物入れの中に、日用品などと一緒に入っていた。」(朝日新聞より)

これが北朝鮮工作船から発見されたのと同じ金日成バッジ。
名称がわからないので「正方形型バッジ」とする。
正確な大きさは縦横16.2mm。たしかに「2センチ弱」ではあるが・・・

 はて・・・。ここで私は考えた。
「縦横2センチ」という表現は、このバッジが円型でないことを示している。金日成バッジは円型のものがほとんどなので、この条件からかなり種類を絞り込むことができる。もちろん党旗(国旗)型や長方形型でもないことは言うまでもない。
 さらに「赤い地に肖像」という点で、ほぼ私の予想は固まった。
 正方形型のバッジか、金日成社会主義青年同盟バッジのどちらかであろう。
 さっそくうちに帰ると、2つのバッジを計測してみた。
 まず正方形型。正方形といっても、各辺は直線でなく、中央がふくらんでいる形である。デジタルノギスを当てて測定すると、16.2mm。確かに「2センチ弱」ではあるが、少し小さいのではないか・・・と私は考えた。
 続いて社青バッジ。幅22.5mm、高さ20.5mm。2センチ強だ。
断定には至らないが、いちばん可能性が高いのは正方形型、次に社青バッジ、と私は踏んだ。あとは画像を確認するだけだ・・・。

 そして、10月4日夜のテレビニュースでは、不審船の数々の押収品の映像が流れた。そこにしっかりと映っていたのが紛れもない正方形型バッジであった。およそ9か月近くも海底に沈んでいたためか、汚れとサビが表面に浮かび、表面をコーティングしている樹脂は所々白っぽく変色していた。だが、紛れもないホンモノの金日成バッジであった。
 あっけなく解決してしまったな・・・と思っていたが、実は気になる報道もあった。

「関係者によると、「金日成バッジ」には階級などにより多数の種類があり、海保では所有者の身分の特定などを進める。」(読売新聞)

 なんだって!? これを読んだ私はいささかのけ反ってしまった。
「関係者」というのがいかなる人物なのかまったくわからないが、なにも知らない人に向かってとんでもないことを進言する人がいるものである!
「階級などにより多数の種類がある」ことは、まず間違いないといえる。だが、所有者の身分の特定を進めるといっても、徒労に終わるだけであろう。このバッジによって「所有者の身分の特定」などは絶対に不可能だと断言してよい。
 ここ何年も金日成バッジを集めてきたが、今回発見された「正方形型バッジ」は、今やもっとも数の多いタイプのひとつなのである。発行数も極めて多いことは、コレクターの実感からしても間違いない。
 海外のコレクターが集めるのと、北朝鮮国内で国民がバッジを入手する経緯はまったく違うので、我々の入手しやすさと発行数が比例するとは限らないが、特種なバッジでないことだけは断言できる。
 なお、このサイトでもさんざん書かせてもらった恵谷治氏著「北朝鮮解体新書」でも、このバッジは紹介されているが、それによると「一心団結章」の1種とされている。その根拠はまったく不明であり、また他のバッジについての記述が極めて不正確かつ間違いも多いことから、私は全然信用していない。
 まさか、「関係者」って恵谷氏のことじゃないだろうな?

 北朝鮮社会の実態については情報が乏しいことから、我々はついいろいろととんでもない想像を働かせがちである。私見ながら、「金日成バッジの種類による階級の違い」などというものも、ある程度の区別があることは疑いないが、そんなに厳密なものではないのではないかという気がしている。
 また、金日成バッジの扱いについても、様々なウワサがある。
 いわく、「粗末に扱うと罰せられる」云々というもので、我々はともすると過度に想像力を働かせすぎである。
 が、今回工作船内から発見されたバッジがどういう状態で発見されたかというと、報道によると「歯磨きチューブなどが入った日用品入り黒いポーチ内で見つかった」とのことである。特別な専用ケースに収められていたわけではない。歯みがき等の類と一緒に、ポーチに放り込まれていただけである。
 
北朝鮮の異常性についてのニュースは、世間の耳目を集めやすく、報道もされやすい。だが、それにばかり気を取られてはならない。ごく普通で常識的な部分についても我々はもっと敏感でもよいはずだ。
 なにはともあれ、金日成バッジの実態がよく理解されていないことをしのばせる報道であった。

(2002年10月5日)